今回の派遣法改正には,派遣会社の許可要件を厳しくするなど派遣労働者保護の面もあるが,低賃金・短期雇用促進の面もある。
正社員よりも安くなるといううたい文句で派遣社員を売り込もうとする派遣会社と,とにかく労働コストを低めるために正社員雇用を減らしたいという派遣先企業の,志の低い思惑が一致すると問題が生まれる。派遣先企業は3年ごとに派遣労働者を入れ替えながら,職場を正社員職場から派遣職場にしてしまう。派遣会社の方は,3年ごとに,みずからが雇用する派遣労働者を入れ替えて長くは雇わない。これでは労働ダンピングであり,悪性の価格競争である。スキルは蓄積されず,仕事の質は上がらない。結局は企業も駄目になる可能性は高い。
派遣先企業の労働組合は,派遣職場の拡大が行き過ぎないように交渉することが必要だ。しかし,残念ながら,安直に派遣職場を拡大しようとする経営側,さして抑止力のない労働組合という図式は,しばらくかわりそうにない。
新しい動きとして期待したいのは,派遣会社が志高い経営戦略をとることだ。つまり,派遣法の趣旨に沿って,派遣社員をスキル重視で高く売り込もうと努力する。そのためには,3年で一つの職場を離れざるを得なくなった派遣社員に次の仕事を回して自社との雇用を継続し,5年たったら労働契約法に基づき,当人の希望に基づいて無期雇用社員にする。この無期雇用派遣社員が,中核的戦力になるのだ。改正派遣法は,このことへのインセンティブを働かせているはずである。
個々の会社が志低いリストラをすることは問題だが,日本全体としては,職務・勤務地無限定の正社員職場が減ることは止めようがない(※)。逆に言うと,個々のケースで志低い低コスト優先により派遣職場が増えるのは問題だが,日本全体として,派遣を含む多様な雇用形態が増えること自体は止めようがない。だから派遣の職場が派遣の職場として健全化し,派遣社員の地位が派遣社員のままでも向上することが必要だ。改正派遣法はそのように使われて欲しいし,「派遣会社の無期雇用」というところに,その可能性があると思う。
その可能性を開くためには,派遣元と派遣先が労働ダンピングに流れないように,社会の監視は不可欠だ。ただし,その監視は「正社員でないとだめだ」と言うものではなく,どんな形態の雇用であっても,正当な権利を守り,地位を向上させて生活を守るという観点であるべきだろう。
※ただし,職務・勤務地限定のジョブ型正社員が増えれば,正規雇用全体の縮小を食い止める可能性はある。
河合薫「悪法「契約3年ルール」で増える“会社の自殺”」『日経ビジネスOnline』2016年1月16日。
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