2018年10月15日月曜日

G型・L型大学ではなく,大学における職業教育拡大をめぐって (2014/10/26)

大学をG型とL型の2種類に分けて後者で職業教育せよという冨山和彦氏の文科省有識者会議資料が話題になっている件。議事録などもっと詳しい文書が出てから改めて議論したいが,プレゼンからわかる大きな構図についてのみコメント。実は,これもいま「企業論」の授業でやっていることと関係する。

日本経済をグローバル競争に直接向き合う部分(Gの世界)とローカル市場の独自性が強い部分(Lの世界)に分けて考えるのは,以前にもコメントしたが賛成だ。

また大学で職業教育の比重を高めよということにも賛成だ。そのために大学が機能分化することもやむを得ないと思う。

ただし,研究大学と職業教育大学で,後者を劣ったもの,研究ができないもの,「……だけ教えていればいいのだ」的に扱うことには100%反対だ。冨山氏のプレゼンの最大の欠陥は,職業教育システムをつくろうというポジティブモードよりも今の大学を否定したいというネガティブモードが強すぎるのと,L型大学をG型大学より劣ったものと読めてしまうことだ。案の定,ネットでそう読んだ上での賛否が起こっている。

また,ひとつの大きな問題は,スライド5と6で,Gの世界にGモードの大学,Lの世界にLモードの大学を対応させていることだ。これは間違っていると思う。むしろ,スライド9はこれとちがうことを言っており,これに賛成だ。私なりに言い換えると以下のようになる。

今の労働市場の重要な変化は,企業内労働市場が縮小していること,つまり企業内で,長期雇用を想定して企業内訓練を施される人の割合が縮小していることにある。Gの世界,グローバル企業でもそうなのだ。

しかも企業内訓練を受けない職には2種類あり,いわゆる「ジョブ型雇用」にも2種類ある。1つは職業別労働市場の職,つまり転職できる専門家たち,転職しながらステップアップできる人の世界だ。もう1つは二次的労働市場の職,つまり非正規のパート,アルバイト,大部分の派遣(派遣の一部は専門家)の世界だ。これは,スキルが不要である,または身分差別的な処遇によりそうみなされているから流動性が高い。

大企業が正社員として囲い込み,企業と企業内でのチームワークに対するコミットメントを確保しながら定年まで雇おうとしている人(男性中心)の割合が低下している理由は,ある程度は大企業のコスト削減という政策だ。これは労働組合やブラック企業批判運動がチェックする対象だ。しかし,同時に長期的にみて構造的にも止めがたい傾向でもある。日本が雇用の安定を強めていくにしても,それは企業内労働市場を回復させることによってではない。転職可能な職業別労働市場を整備し,そこに,きちんとスキルを評価してもらい,身分差別なく参加できるようにすることによってなすべきだ。そうしてこそ女性や非正規の冷遇も解決できると思う。

そこで問題は「各企業が訓練しないならば,誰が訓練するのか」ということだ。今までの労働規制緩和論の最悪の側面は,このこと抜きに「流動性を高めて市場を機能させろ」と言っていたことだ。職業訓練は,従業員を長期雇用で企業内に確保するのでなければ,個々の企業には採算に合うものではない。逆に,何もかも自己研鑽に委ねていては高度スキルを身に着けるのはたいへんで効率が悪く,格差がますます広まる。

したがって,労働市場が流動化すればするほど,職業訓練を行う第3者が必要なのだ。私は授業でこう教えている。ここで,高等教育機関が乗り出してやる時ではないか,というのが私の意見だし,それは冨山氏のスライド9とも一致する。ただし,本当にもっぱら大学がやるのが良いのか,高校ではどうなのかなど,考えねばならないことはたくさんある。

職業訓練を重視する大学は冷遇の対象ではない。むしろ,すでに目指す姿がわかっている研究大学よりも予算と手間暇をかけて厚遇し,創造すべき対象だ。もちろん,研究予算に比べて教育予算の比重を高くはすべきだが,独自に実践や地域社会に近い研究活動も必要であり,予算削減の口実にすべきではない。私はここのところでの冨山氏の意見が聞きたい。

そこで学ぶ内容について冨山氏のスライド7は貧困だ。なぜならば,Lの世界でも社会の変化に対応してものを考えねばならず,そこで生きるには,今までよりは実践的な,変化に対応する思考と行動の能力を付けねばならないからだ。冨山氏のスライド7よりは,いま地方の大学がすでに挑戦している地域関係の学部・学科のカリキュラムの方が役立つだろう。もっと深い研究が必要だ。

以上だが,私はこの議論をとにかくネガティブモード全開での罵倒や皮肉にもっていかず,「大学が職業教育に乗り出すことの必要性はどうか」「その具体的な姿はどうか」というポジティブモードに持っていくべきだと思う。

文部科学省「実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化に関する有識者会議」第1回(10月7日)冨山和彦委員配布資料
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/061/gijiroku/__icsFiles/afieldfile/2014/10/23/1352719_4.pdf

2014年10月26日facebook投稿
2014年11月13日 Google+転載

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